ラトビア巡検2022秋 4 【公共鉄道インフラの撮影について】

ラトビア国鉄の写真や動画は、鉄道写真の投稿型サイトやYouTubeに豊富にアップロードされているが、実は撮影許可が必要である。

Twitterで断片的に、ラトビアで警察を呼ばれたこと、撮影禁止ではないかという趣旨のツイートを投稿したところ、反響が大きかった。今回のエントリーでは、現地での出来事と、撮影禁止についての情報を紹介したいと思う。

2022年11月1日 AM

Train #802 Riga- Daugavpils
Pļaviņas-Krustpils 9:29

問題は、Jēkabpils北部の線路が立体交差している先の踏切【56.547468, 25.821639】でダウガヴピルス行きの802列車を撮影していたときから始まっていた。

見事に対向列車に被られた802列車の撮影後、三脚にカメラをセットしたまま線路から20mほど離れたレンタカーの近くに立っていると、黒いSUVが通りがかり、先の交差点で強引にUターンして戻ってきて、そして乗っていた初老の男性に大声で怒鳴られた。

ラトビア語はまったく理解できないが、「ミリタリーシュピオン」やら「ドキュメント」と言っているのは分かったので、パスポートを見せながら「ニェット・ミリタリーシュピオン」と返事をしたのだが、まったく納得している気配はなく、警察へ通報したようだった。

(どうせ言葉が通じないので)勝手にしてくれと思いながら眺めていたが、状況が緊急通報先に伝わっている気配はなく(電話相手に明らかに苛立っていた)そうしているうちに別のワンボックスがやってきた。怒鳴ってきた初老の男性とワンボックスの運転手がなにやら会話をしたのちに、私とレンタカーの写真を無断で撮影して、SUVは去っていった。

こちらのワンボックスは偶々通りがかっただけだと思うが、蛍光ベストを着た作業員が複数名乗せていた。彼らが国鉄の保線員かどうかは分からないが、運転手にも「ノーフォト」と言われたことと、曇りとはいえ光線も優れなくなってきたため、10時過ぎに踏切を立ち去った。

このSUVは恐らく、ガス関連の事業者の社用車ではないかと思う。いろいろ検索しても同じロゴを発見できないが、三角形状の、炎を図案化したようなロゴを張り付けていた。


2022年11月1日 PM

LDZ Cargo 2ТЭ116-992
Jersika-Līvāni 12:08

JēkabpilsのスーパーでGoogle Map眺め、沿線の幾つかの踏切をロケハンしたのち、Līvāniの南側に位置する踏切【56.3307111, 26.1863266】へ移動したのが11時半頃である。

前回のエントリーで紹介したように、あまりにも貨物列車が来ないため、ここにやって来たリガ方面へ向かう2ТЭ116-992を追いかけることにした。

LDZ Cargo 2ТЭ116-992
Trepe-Krustpils 12:32

踏切から約8km離れたLīvāni 駅北側の踏切【56.396877, 26.144496】は間に合わず、さらに北側へ10km離れた踏切【56.458325, 26.057986】に間に合ったのが12:32である。

Krustpilsから先へ急ごうと編成が通過するのを眺めていると(改めて考えると、この列車がKrustpilsから北に行くのか、分岐して西に向かうのか不明なのだが)踏切の反対に、セーターを着た男が立っているのである。

この通り何もない踏切であるから、どう見ても私に話があるのは自明で、厄介なことになったなと思った。


朝に怒鳴ってきたSUV男と違い、こちらの男性は自ら身分証明書を提示してきて、ラトビア国鉄の職員だと自己紹介してきた。

職員の英語が流暢ではなかったため、Google翻訳越しでのコミュニケーションとなった。Google翻訳は履歴が残る。全文ではないが、スクリーンショットを掲載する。

互いに音声入力を使っていて、変な入力になっている箇所があるのと、英語でそのまま会話した部分もあるが、要点は以下の通りだ。

・鉄道の撮影には許可証が必要である。許可証の無い撮影は認められない
・Q. 許可証はどこで入手できるか A. リガの国鉄本部で入手できる
・我々はテロリストを恐れている。ウクライナの情勢を知っているだろう
・Q. ラトビアには多くの鉄道趣味者がいる。全員許可証を持っているか A. 一部は持っていないが、全員持っているべきだ
・Q. 国鉄本部に行けば即日許可証を入力できるのか →これついては国鉄本部のメールアドレスを教えきた
・警察を呼ぶが、ペナルティは無い

補足:Gogolia 3(Гоголя 3)というのはリガの国鉄本部の住所である。

国鉄職員は、朝にSUV男が撮った写真を持っていた。朝のSUV男がどこかへ情報を共有して、わざわざ沿線に繰り出して探してきたのだろう。ご苦労なことである。

またこの間、職員は何度も携帯で連絡を取って指示を受けていた。単独で状況を判断していたのではない。

警察は写真撮影の許可に対して興味がある訳ではなく、国際免許証を確認したのちは、パスポートに貼られた3年前のロシアのビザを丹念に見ては、ロシア人か?ロシアから入国したのか?と聞いてきた。

頼むから、その隣のページに押されているフランクフルトの入国印を見てくれ。

カメラの写真は国鉄職員ではなく警察が確認したが、リガのトラムとTE116の写真しかないので、興味がなさそうだった。

後部座席に事前に印刷していた旅客列車の時刻表を放り出していたのが警察の目に留まり、かなり渋い顔をされたが、国鉄職員がWEBに公開している情報で問題ないとお墨付きを与えてくれた。

LDZ TEP70 with track measurement car

これは途中で通過したラトビアで恐らく唯一現役のTEP70(TEP70-0268だと思う)が牽引するマヤ検。一枚だけ、一枚だけと言いながら、国鉄職員の許可を得てスマホで撮った。

結局、30分ほど足止めを喰らっていたが、別に写真を消せと言われることも無く、国鉄職員も警察も、そこそこ友好的だった。

しかし疑問が残る。これだけネットに写真や動画が投稿されていて、ラトビア国鉄が撮影禁止なわけが無いだろう、と。


ドキュメントとは

Twitterにここまでの話を断片的に投稿したところ、様々な反響があった。ただ結局、許可証が何かはっきりしない。

当初の予定では11月3日はラトビア東部のRēzekneで撮影しているはずだったが、これは前回のエントリーで紹介した通り、11月2日中にリガへ戻っている。

そこで、リガの鉄道博物館へ足を運んだ。リガの鉄道博物館はボランティアが維持管理しているのか、博物館職員なのか不明だが、少なくともインターネットより確実な質問の答えが得られるだろうと考えた。

ひとしきり展示物を眺めた後に人を探すと、職員なのかボランティアなのか不明だが、英語を話す50~60代くらいの男性の方にいろいろと質問することができた。

ここまでの経緯を説明したうえで、ラトビア国鉄は撮影禁止なのか、ドキュメントはどのような書類かを訊ねた。

昔は撮影禁止だったとか、橋梁やトンネルは近寄らない方が良いとかいう、旧ソ連圏ならそりゃそうだろうという一般論と、ドキュメントについては知らないという事だった。

ところが、会話後にしばらく展示物を眺めているところへやってきて、鉄道インフラの撮影に関する内閣府令が出ていて、関連書類が先月更新されていると、ラトビア国鉄公式サイトのWEBページを示してくれた。

【Foto un video uzņemšanas kārtība publiskās lietošanas dzelzceļa infrastruktūras objektos】

www.ldz.lvのトップページ中央にMedijiemというリンクがある。クリックするとプレリリースの一覧が出るが、左サイドバーにこのページへのリンクがある。

Foto un video uzņemšanas kārtība publiskās lietošanas dzelzceļa infrastruktūras objektos

原文からは各自翻訳して確認して頂きたいが、

公共鉄道インフラの撮影に関する手順(ラトビア国鉄理事会の決定VL – 20/152号)は、

2021年7月の内閣府令508号”Procedures for Surveying Critical Infrastructure, Including European Critical Infrastructure, and for Planning and Implementation of Security Measures and Continuity of Operation”

2019年8月の内閣府令368号”Procedures for flights of unmanned aircraft and other types of aircraft”

2021年4月のラトビア国鉄理事会の決定VL-16/138号”Rules for the use of passenger stations”

に従って、鉄道インフラ近辺での写真・動画撮影をコントロールすることを目的に制定された、ということだ。

※VL – 20/152号がいつ発令されたか不明だ。ファイルの作成日は21年4月になっている。

※添付文書では、2010年7月の内閣府令496号”Procedures for planning and implementing identification and security measures of critical infrastructure, including European critical infrastructure ”と書かれているが、内閣府令508号の末尾に内閣府令496号は廃止されたと記述があるので、日付の間違いではなさそうだ。


VL – 20/152号の内容は特殊な物ではない。申請から撮影までの手順を制定したもので、簡潔に書くと、非営利目的の撮影は添付の申請書を5営業日までにメールせよ、と書かれている。

この添付文書が厄介で、かなり詳細に撮影場所や日時を記入する必要がある。当然、橋梁やらトンネルは撮ってほしくないだろうから、場所を書かせるのは理解できる。ただ、使用機材を書かせる欄を見るに、ドローン撮影のを前提にした許可制度じゃないかという気もしてくる。

【2.6 Mākslas un dokumentālo filmu veidotāju pieteikumi tiek izskatīti individuālā kārtā. Pieteikumi jāsūta uz pr@ldz.lv.】

ところが、VL – 20/152号の2.6項に、芸術・ドキュメンタリーフィルムについてはメールにて個別審査と書かれていて、添付文書について記載がないので、鉄道ファンは添付文書を使用しなくても良い可能性もある。

まとめ


ラトビア国鉄の撮影は許可制である。

通りすがりの市民様(インフラ会社の職員の可能性が高い)の通報した写真が国鉄職員の手元に届くワークフローが存在する。

多動な鉄道ファンを追いかける熱心な職員が仕事をしている。

時刻表や列車の通過時間を記したメモ帳などは持ち歩かない方が賢明である。

非営利目的の撮影に必要な申請書は具体的に場所は日時を指定する必要があるが、申請書不要の芸術目的の撮影で申請すれば通る可能性がある。

おわりに

内閣府令508号には英語版が存在する。

Procedures for Surveying Critical Infrastructure, Including European Critical Infrastructure, and for Planning and Implementation of Security Measures and Continuity of Operation

あまり長くない条文だが、面倒でさすがに読んでいない。この内閣府令で撮影禁止と定められているか否か、解読報告をお待ちしている。

流し読みした限りでは、撮影禁止の設備には”NO PHOTOGRAPHY OR VIDEO RECORDING WITHOUT PERMISSION”と掲示せよと書かれているし、VL-16/138号は駅の規定であるから、沿線は撮影禁止ではないことになる。

ラトビア鉄道 レーゼクネ撮影地 2022 【TE116 CME3】

撮影禁止の駅には掲示があるようで、これは内閣府令の通りである。


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